戦争もアウトソース
今年4月、イラクのファルージャで、米国人4人が抵抗勢力の待ち伏せを受けて殺害され、その遺体が鉄橋に吊り下げられるという悲惨な事件があった。

だがこの時に殺されたのは米軍兵士ではなく、ノースカロライナ州に本社を持つ民間セキュリティ会社「ブラックウォーター」の社員だった。

彼らは米海軍の特殊部隊
SEALSの元隊員たちで、米軍から委託されて、要人警護や、輸送部隊の車列の護衛、爆発物の処理、イラク警察や軍の訓練などの業務を行う下請け会社に勤めていたのだ。

1996年に設立されたこの会社は、イラクの占領当局だった
CPAのポール・ブレーマー長官の警護を行ったことで有名だったが、ファルージャで社員が「戦死」してから、世界的に有名になった。

同社は警護部門、射撃訓練部門、警察犬・軍用犬訓練部門、航空部門など5つの子会社を持ち、米国の国防総省、国務省、運輸省や多国籍企業などの顧客に対し、セキュリティに関するサービスを提供している。

社長のゲリ−・ジャクソン氏も、
SEALS部隊に23年間所属した軍歴を持ち、社員には特殊部隊の元隊員が圧倒的に多い。

社名のブラックウォーターも、ベトナムなどで活躍した
SEALSが得意とする、夜間に海や川から上陸して行う奇襲攻撃を思い起こさせる。

イラクで勤務する社員は、1日900ドル(9万9000円)の報酬が約束されるため、ファルージャの事件の後も、応募者の数は増える一方だという。

ブラックウォーターが請け負ったブレーマー長官の警護任務は、同社に2100万ドル(27億3000万円)もの報酬をもたらした。

現在イラクで米軍の下請け仕事を行っている民間人は、1万5000人にのぼる。中には、チェイニー副大統領が社長を務めていた企業の子会社
KBRも含まれている。

9月11日事件後、特に米軍のイラク侵攻以降は、軍事関連の下請け産業が急成長しており、米軍は今年だけでもこの種の企業に250億ドル(3兆2500億円)の報酬を支払う見込みである。

効率化、コスト削減をめざす米軍は、今後も事実上「傭兵」のようなこの種のセキュリティ会社を、積極的に利用するものと思われる。

ビジネスの国、米国らしい話だ。日本や欧州に比べると、米国では軍人の地位が高く、軍隊は身近な存在である。また、ガンマニアというかミリタリーおたくの層も、厚い。

兵器に関心があり、冒険好きな米国人ならば、1日900ドル稼げると聞いて、イラクに駆けつける人は少なくないだろう。

特に一度戦場を経験した特殊部隊兵士の中には、普通の生活に物足りなさを感じる人も多い。

だが一方で、ビジネス感覚で戦争を行うことで、ジュネーブ協定や軍の規律などの遵守おろそかになるとしたら、過度のアウトソーシングも問題になるのではないか。(文と絵・熊谷 徹 ミュンヘン在住)

週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年8月16日