パキスタン核疑惑と国際テロの脅威

 世界貿易センターを完全に倒壊させるという、大規模なテロ攻撃を実行するアル・カイダのような組織が、核兵器を入手することは、21世紀最大の脅威である。イスラム過激派が小型原爆を入手したら、マンハッタンの真ん中で炸裂させることを、ためらわないだろう。イラク戦争で、自爆テロの予備軍は一段と増えている。この脅威に最もさらされているのは米国だが、日本やドイツにとっても他人事ではない。

そうした中で、パキスタンで原爆を開発した科学者カディル・カーンが、90年代に北朝鮮、リビア、イランに核兵器に関する技術や機材を供与していたというニュースは、各国の安全保障関係者に強い衝撃を与えた。このことは、冷戦後第三世界で核技術の闇市場が誕生し、テロリストに核爆弾が流出する危険が強まったことを物語っているからである。だが、軍と秘密警察が強い権力を持っているパキスタンで、国家機密を握る科学者が、独断で遠心分離機を横流ししたり、各国の核技術者らと会合を持ったりしていたと考えるのは、極めて不自然である。

またパキスタンのムシャラフ大統領が、カーンによる核技術密輸の事実を公表したいきさつも、どこか芝居がかっていた。迷彩服をまとった大統領が、テレビカメラの前でカーンの謝罪を受け入れて、彼を「赦免」し、刑事訴追を行わないことを決定した。この不自然な経過は、カーンが一人で悪者になり、国家が核技術の密輸に関わっていたことを公表しないかわりに、訴追を免れるという取引があったことを、うかがわせる。カーンの家族はすでにパキスタンから出国しており、彼が逮捕された場合は、パキスタン政府の関与を暴露すると大統領に圧力をかけたのかもしれない。

年間何十億円もの予算を使っている
CIAも、パキスタンとインドが核実験を行うという情報を、事前につかむことができなかった。つまり、西側の諜報機関も、第三世界での核拡散に関する情報を的確に入手する態勢を持っていないのだ。今後何十年間にわたり、イスラム過激派は核兵器や放射性物質を入手するために必死の努力を続けるだろう。最も危険なのは、核兵器や老朽化した原子力潜水艦の管理がおろそかになっているロシアである。

西側の諜報機関は、核技術拡散の実態を徹底的に解明して、闇市場を壊滅させ、拡散に関する情報をいち早くキャッチする態勢を構築しなくてはならない。


週刊 ドイツニュースダイジェスト 2004年3月5日